小説・Fearful lady2011/10/02 14:40

「Fearful lady」

           津々井茜

 突然、僕をねっとりしたまなざしで見つめ、次の瞬間、姉は僕を抱きすくめた。

「お……おね、おねぇ……お姉ちゃん? あのあのあのっ……ぎゃっ!!」

 なんなのだろう、この感触とこの感覚は。僕の首筋にぐさりと刺さったものはなに? 悲鳴は上げたものの、陶然としてしまいそうな感覚にも包まれて、足元が崩れていきそうだ。思わずすがりつくと、姉は甘い甘い声で囁いた。

「これで國ちゃんも私たちの仲間よ」
「仲間?」

 気が遠くなっていく。膝がくたくたっと折れて、僕は畳にへたり込んだ。
 見上げると、姉がなまめかしささえある表情で僕を見ている。怖い。とてつもなく怖い。ものごころついたころから、僕は姉が怖かったのだが、今夜の怖さは尋常ならぬものだ。それでいて、姉はとてつもなく美しく見えた。

 三つ年上の姉の美江子は、昔から怖かった。中学生くらいになったころからは、美人にもなった。僕にとっては美人の自慢の姉でもあり、怒ってなんかいなくても怖い、物語に出てくる寮の舎監先生のような、そんな存在だった。

 いつだって優しく穏やかに、時には勉強を教えてくれ、時には注意もアドバイスもしてくれ、相談にも乗ってくれる姉なのに、なぜか僕はずっと姉が怖かった。

 大学に進学したら東京に行くと姉は言っていて、その望みをかなえた。僕も東京に行きたくて、東京の大学を受験したら合格した。両親は姉の東京行きも僕の東京行きも快く許してくれたのだが、父に言われたのだった。

「お姉ちゃんが借りてる部屋はけっこう広いから、國ちゃんも一緒に暮らせるだろ。お姉ちゃんも来てもいいと言ってくれてるよ」
「お姉ちゃんと暮らすの? だけどさ、お姉ちゃんは女で、僕は男なんだけど……」

「そんなのはお父さんは知ってるよ。だからったって姉弟だろ。どうってこともないない。それとも、なにか、國ちゃん? おまえは姉の美江子を……」

「殺されてもあり得ませんっ!!」
「当たり前だ。聞いたお父さんが馬鹿だった。ごめんな。じゃあ、決定。仲良く暮らせよ」

 軽くいなされて決められてしまい、僕は父の決定に従うしかなかったのだ。

 姉が近くにいない三年間は、寂しさもあったけれど平和だった。高校の三年間は僕はひとりっ子になって、ひとりでがんばって受験勉強もした。大学は姉とは別々の学校だが、一緒に暮らすのか。怖い、とどうしても思ってしまう。

 どうして僕はそんなにお姉ちゃんが怖いんだろう? 暴力をふるうわけでもなく、暴君ってわけでもない姉なのに、物理的ではなく精神的怖さか。そっちにしたって、外見も穏やかな普通の女性なのに。

 大学生活にもなじんできた僕。大学四年生で、就職も決まりそうだと言っている姉。ごく平凡な姉弟の日常だ。なのになのに、姉とふたりで暮らし、家事も分担して和やかにやっていてさえも、僕は姉が怖かった。

 今夜はじめて、姉の怖さのわけがちょっぴりわかったのだが、その詳細がわからない。姉って何者? 化け物? 嘘だよーっ!! と叫びたくなった。

「お姉ちゃん、僕になにをしたの?」
 畳にへたったままで、首筋にそっと手をやった。小さな小さな虫刺されの跡みたいな感じが手に触れた。

「僕がお姉ちゃんの仲間って、どういうこと?」
「國ちゃんが来るのを待ってたんだ。東京に来た早々ってのも、学校にも東京にも慣れてないだろうに、かわいそうだから今まで待ってたの。待ちくたびれたよ。早く國ちゃんの血が吸いたくて」

「血?!」
「そうよ。私、國ちゃんの血を吸ったの」
「お姉ちゃんって……」

 吸血鬼? ヴァンパイヤ? 僕の頭の中に、吸血鬼に関する乏しい知識が攻め寄せてきた。

「弟の血なんて血縁が濃すぎて、よくないんじゃない?」
「血族結婚じゃないんだから、血が濃いってのは関係ないよ」
「お姉ちゃん、昼間だって活動してるじゃないか」

 太陽とにんにくと十字架が弱点で、斃すには銀の弾丸。とどめを刺すには十字架型のくさびを心臓に打ち込む。吸血鬼ドラキュラのモデルはワラキア大公ヴラド・ツェペシュ。僕のそんな知識を口にしてみたが、姉はしゃらっと応じた。

「そんなの俗説だよ。私は人間としてだって普通に活動できるの」
「お姉ちゃんはどうやって吸血鬼になったの? 誰かに血を吸われたの?」
「吸血姫って呼んで。吸血お姫さまだよ」

 鬼も姫も音は「き」だ。そんなのはどうでもいいじゃないか、と言いたかったのだが、鬼気迫る妖艶な吸血姫の美しさを目の当たりにしていると、信じないとも言えなくなってしまった。

「彼よ」
 証拠なんか見せてくれなくても、僕は完全に信じていたのだが、重ねて信じるしかなくなる事態が起きた。窓から蝙蝠が飛び込んできて、そいつが人間の男の姿になったのだ。

 黒ずくめの忍者ふうルックの、背の高い男。吸血王子なのか。姉とは美男美女の好一対としか言いようのない、美しくて、それでいてまがまがしさもたたえた容貌をしている。彼は僕に腰を折って典雅な礼をしてから、口を開いた。低い美声だった。

「美江子とつきあうようになって、血ももらったんだ。彼女の同意も得たよ。きみは美江子の弟なんだね。俺たちの仲間にもなったんだろ?」
「ついさっき、仲間にした。翔、今夜も素敵」
「おまえも綺麗だよ、美江子」

 弟の前で見せつけるな、とも言いたかったのだが、僕はぽーっとふたりに見とれてしまっていた。

 翔と呼ばれた男が姉を抱き寄せ、くちびるを触れ合わせる。背の高い屈強そうな身体つきの男に抱きしめられていると、姉があえかにか細い姫君に見える。姉とのキスを終えると、姉を抱きしめたままで翔は言った。

「最初は首筋から血を吸うんだけど、吸血鬼の恋人同士のキスは、血の味がするんだよ」
「國ちゃんの首筋から吸った新鮮な若い血もおいしかったけど、翔とのキスの血の味はまたちがってて最高」

「俺たちがもっとも満足できるのは、愛し合うパートナーとのキスの血だよ。教えてやっただろ、美江子?」
「体験もしてみて、本当だってよくわかったわ」

「だからさ、國友」
 なれなれしく僕を呼び捨てにして、翔は言った。

「俺は美江子を俺の恋人にした。美江子にも俺がいる。けれど、吸血鬼の仲間ってのはマイノリティなんだよ」
「そりゃあそうでしょうね。そんなものがうようよいたら……げげげのげ」

「おまえも吸血鬼になったんだから、血がほしい、と囁いたらうなずいてくれる、美しい女を捜せ。無理やりやってはいけないんだ。互いに恋をして、愛し愛される男と女。それがベストカップルなんだから、おまえもおまえが愛せて、おまえを愛してくれる女を見つけろ」

「男でもいいんだけどね」
「美江子、こいつ、そっちの趣味か?」

「どうだろ? 國ちゃんの彼女って、一度も会ったことはないな。中学まではいなかったよね」
「中学生だったらいなくても当然かもしれないけど」

 ふたりそろって僕を凝視し、姉が尋ねた。

「高校生になったら彼女はいたの?」
「いないよ」
「あいかわらずもてなかったんだね。かわいそうに」
「もてなくはないけど……」

 いいや、もてない。悔しいけれど認めるしかないけれど、女の子にもてないからって、男の恋人を求める趣味もない。翔のような妖しい美青年ではなく、姉のような妖しくもおっかない美女ではなく、清楚な可愛い女の子の恋人だったらほしい。

 けれど、もてない僕にそんな恋人が見つかるのだろうか。まして、僕はその子を吸血鬼にしないといけない? 拒否権すら与えられずに僕は姉に吸血鬼にされてしまったのだが、姉弟はそれでもいいのだろうか。

 恋人を見つけ、彼女にお願いして血を吸わせてもらい、彼女に仲間になってもらう。そうすることで恋人たちの仲が深まる。人間にはなし得ない、深く濃く果てしなく睦まじいカップルになれる。

 でも、僕だったら最初の段階でつまずくのではないだろうか。無理だよ、と言いたくなっている僕に、翔が言った。

「今も彼女はいないんだな? そうだろうな。いないよな、おまえじゃ。美江子の弟だってのに、ちっちゃくて頼りなさげでひ弱そうで、おまえたち、本当に血がつながってるのか?」
「実の姉弟だよね、お姉ちゃん?」

「そうのはずだけど、事実確認はしてないから、確信は持てないな」
「そんなぁ……お姉ちゃんったらひどいよぉっ」

「國友、黙れ」
 一喝されて口を閉ざすと、翔は言った。

「俺だって、美江子を見つけるには時間を要したんだ。長く長く捜し求めて、ようやく理想の女とめぐり会えた。おまえは理想のなんのと贅沢を言ってる場合じゃないぞ。さっさと女を見つけないと、飢えに苦しめられるんだ」
「どうしようもなくなったら、私の血をあげるけどね」
「美江子、弟を甘やかすな」

「だって、かわいそうじゃないの。國ちゃんだったら彼女ってのもなかなか……がんばってね、國ちゃん。お姉ちゃんも可愛い女の子を探してあげる。でもでも、紹介してみたって、國ちゃんじゃ……こんなのいやって……ううん、國ちゃんは可愛いもんね、きっと彼女はできるよ」

 半分は悪口だったようにも聞こえたが、励ましてもくれたのだろう
。姉の言葉に、僕は力なくうなずくことしかできなかった。


ああなってこうなって姉が翔に吸血鬼にされたのだとしたら、翔は誰にされたのだろう? 前の彼女に?

 しかし、姉以上に怖い翔には質問できない。姉にも質問できない。姉は知っているのかもしれないが、言いたくないのかもしれないのだから。

 現代の吸血鬼は互いの血によって結びつき、カップルの絆を深めていく存在であるらしい。僕も吸血鬼の深い部分は知らないのだが、昔の吸血鬼のようなものではない。姉が僕の血を吸ったのは、時には新鮮な別の人間の血がほしかった、というのもあるようだが、もうひとつ、大きな理由があったのだった。

「人間なんかとは桁違いの官能が得られるのよ。國ちゃんにもあの素晴らしい官能を味あわせてあげたかったの」
「官能……」

「國ちゃんだって、愛し合える女と愛し合って血を与え合えば、心と身体で体感できるのよ。論より証拠っていうでしょ。早く彼女を見つけなさい」

 そんなこと言われたって、僕には彼女なんて容易にはできないよ。弱音を吐きたくなった通りに、僕には彼女なんてできなかった。

 それはそれとしても、吸血鬼ではなかった姉が僕にはあんなに怖かったわけはどこにあったのだろうか。姉は東京に来て翔と知り合い、告白されてつきあうようになって、彼に血を吸われて吸血鬼になったのだそうだから、故郷にいたころは普通の高校生だったのだ。

 なのに、あんなに僕を怯えさせた姉は、昔から化け物の素質があったのだろうか。だとしたら、僕には素質なんかないのだから、吸血鬼にしないでほしかった。

 なりたくなかったと嘆いてみても、僕は吸血鬼になってしまったのだ。翔に吸血鬼にされた姉によって、僕も吸血鬼になり、血を欲する体質になった。

 人間の食べものも食べられるので、常に飢餓にさらされているのではないが、時として猛烈に血がほしくなる。そうなると、姉が指先をしゃぶらせてくれるのだった。

「首筋は特別だから、國ちゃんには吸わせられない。キスは恋人たちの行為だから、これで我慢してね」

 姉の指をしゃぶるってとっても変な感じだけど、かすかに喉に流れ込んでくる血は、極上のワインもかくやと思われるほどに美味だ。血はぽっちり吸えば飢えが満たされる。だけども、姉の血がこんなにもおいしいのだから、愛する女性の血はさぞや、と思ってしまう。

 それでもそれでも、僕には彼女なんてできない。可愛いな、好きだな、と感じた女の子はいて、思い切って告白したのだが、あっけなくふられた。
 
 彼女なんてできっこないよぉ。でも、愛するひとの血がほしいよぉ。どうすりゃいいんだろ。なんて考えている僕のもとに、耳寄り情報がやってきた。

 僕の通っている大学に「ヴァンパイア研究会」というサークルがあるという。ヴァンパイアに興味のある学生が集っているはずだ。そういうサークルにだったら、僕が求める女性がいるのではないか、と期待して部屋を訪ねると、三人の女性が出迎えてくれた。

「私は三年生で、サークルのキャプテンなの。このふたりは私の妹。三年生の私はアイ、二年生がマイ、一年生はミィ」

 アイ、マイ、ミィって、英語のなんとか活用みたい。しかし、三人とも相当な美人だ。背丈は三人ともに僕と同じくらい。どれにしようかな、と僕が勝手に迷っていると、アイさんが言った。

「去年までは他の部員もいたんだけど、今年は私たち姉妹だけになっちゃったのよ。國ちゃんって呼んでいいでしょ? 國ちゃんも含めて四人しかいないサークルだけど、少人数だとそれはそれで楽しくやれるよね。これからよろしく」
「はい。よろしくお願いします」

 それからは四人で、吸血鬼に関する研究活動をした。映画や物語に於けるヴァンパイヤ像の研究がメインで、目新しいものではない。古典の吸血鬼ってのは意外にステロタイプなのだが、現代作家の創造した新しい吸血鬼もいる。吸血鬼以外にも古今東西の妖怪や妖精のたぐいの研究もした。

 吸血鬼はおおむね美しい。翔も美青年だし、姉も美女だ。翔のもとからの仲間の吸血鬼ってのもいるらしいが、その方々には僕は会わせてもらっていない。僕に恋人ができたら、カップルで吸血鬼の集いに参加させてもらえるのだそうだ。

 新種の吸血鬼である、というか、そもそも想像の産物である吸血鬼に、本物の旧種がいるのかどうかは知らないが、新種の方々もさぞや美しいのだろう。怖いという気持ちは常につきまとっているが、僕も早く女の子とカップルになって、吸血鬼の会合に出席したかった。

 美しいといえば、サークルの女性たちも美しい。彼女たちもなんだか怖いような気がするのは、ヴァンパイヤサークルに所属しているという先入観のせいだろう。三人ともと仲良くなるにつれて、告白したいという気持ちが高まっていった。

 お姉さんたちもいいけれど、やはり同い年のミィちゃんがいい。ある日意を決して、僕はミィちゃんに告白した。

「嬉しい。私も國ちゃんが好き。そう言ってくれるのを待ってたのよ」
「へっ? ほんと?」
「本当だよ」

 むしろ僕は驚いた。こんなに可愛い女の子が、僕みたいなちびに告白されて嬉しい? 変だな、とは思ったのだが、僕だって嬉しいのだから、疑ってはいけない。ミィちゃんは男の身長やルックスなんか気にしない、心の広い女の子なのだ。

「お姉ちゃんたちも喜んでくれるわ。お姉ちゃんたちの前でもう一度言って」
「部室で?」
「私たちのマンションに来てよ」

 部室ではなく喫茶店で告白した僕は、ミィちゃんの頼みにうなずいた。

 アイ、マイ、ミィ三姉妹は、美江子、國友の姉弟同様、地方から上京してきてきょうだいで暮らしている。僕には姉がいるのだから女性に免疫がないわけではないが、姉以外の女性には慣れていない。どきどきしながらミィちゃんたちの部屋に連れられていくと、姉さんたちが待っていた。

「いらっしゃい。國ちゃん。ミィとそうなったのね。私も嬉しい」
 長姉が言い、次姉も言った。

「待ってたんだ、國ちゃん。早速で悪いんだけどね……姉さん、ミィ、いい?」
 いいよ、とあとのふたりがうなずく。え? な、な、な、なに? 思わず、二、三歩下がった僕を、三姉妹がじーっのじーっと凝視する。この目は……この目は……いったい? 僕はあとずさりした姿勢で固まった。

 比喩ではなく、文字通り固まったのだ。動けなくなって、僕は六つの瞳に見つめられ、頭の中を真っ白にしていた。

 意識が戻ると、僕はベッドに横たえられていた。手で身体を探ると、上半身裸。固まってしまった僕は、三姉妹にベッドに運ばれてシャツを脱がされたのか? なんのために? 上体を起こそうとすると、アイさんの声に阻止された。

「そのままでいて」
「國ちゃん、好きよ」

 マイさんも言い、僕の胸に顔を近づけてくる。アイさんもミィちゃんも、三人そろって僕の胸に顔を伏せた。

「……あのっ、あのっ、なんなのでしょうか。これは?」

 いったい僕はなにをされているんだ? 彼女たちも吸血鬼? 血を吸われているのではないようなのだが、ただ、キスされているのだろうか。三人の女性に裸の胸にキスされている? そう考えると気絶してしまいそうになる。顔がかーっと熱くなるのを感じて、動けずにいる僕の耳に、ミィちゃんの声が聞こえた。

「こうなったら正直に言うね。私たち、メドゥーサ姉妹なの」
「メドゥーサ?」

 ギリシャ神話に出てくる化け物だ。見たものを石に変える能力を持つ魔物。頭髪は無数の毒蛇で、イノシシの歯、青銅の手、黄金の翼をそなえた容姿をもっている。メドゥーサも三姉妹だったはず。

 こっちの三姉妹はそのような容姿はしていないが、実体を隠しているだけなのか。髪が蛇だなんてこともなく、僕は彼女たちの目によって固まらされたのだが、気を失っていた間は、石にされていたのだろうか。

「國ちゃんは化け物にも詳しいよね。メドゥーサって知ってるでしょ」
「う、うん、だいたいはね。ミィちゃん……それって……」

「私たちは見た目は普通の女の子だよ。蛇の髪だとか黄金の翼だとかはないんだけど、人間を一時的に石にする能力はあるの。身体を石にするというよりも、精神的に石化するっていうのかな」
「それとね」
 アイさんも言った。

「こうやって若い男の子の胸に口づけて、魂の中からエネルギーをもらうの。國ちゃんは私たちに好意を持ってくれてるでしょ? ミィに告白までしてくれたんだもの。レイプみたいに無理やりっていうのはしたくないから、國ちゃんが言ってくれるのを待ってたの。嬉しいな」
「は……はあ……」
 マイさんも言った。

「こうして國ちゃんの胸にくちびるをつけると、國ちゃんが考えてることもちょっぴり読める。國ちゃんったら、ヴァンパイアなんだね。一種、同類じゃないの」

 知られてしまったのか。ならば話は早い。僕のエネルギーはあげるから、あなたたちの血をちょうだい。ミィちゃんの血だけでもいいからちょうだい。僕が一心に念じていると、その想いを読み取ったようで、ミィちゃんが言った。

「國ちゃんのエネルギーをもらったからといっても、國ちゃんが衰えていくってことはないんだよ。長年の間にはあるかもしれないけど、じきにどうこうなったりはしないから安心して。でも、どうなんだろ、マイちゃん? 私たち、ヴァンパイヤになれる?」

「別種の妖怪にはなれないんじゃない? ねえ、姉さん?」
「吸血鬼になんかなったことはないからわからないけど、下等な妖怪だよね。私はいやだな」

「ミィ、あんたがなれば? 國ちゃんの要求と私たちの要求が一部分で一致するんだから、ミィはやだ、ってのは通らないと思うよ」
「そうそう。ミィ、國ちゃんに血を吸わせてあげなよ」

 姉さんたちが妹に言い聞かせてくれて、ミィちゃんはいやそうにうなずいた。
「ものはためしに吸ってみたら?」
「はい、では、やってみます」

 ベッドに起き上がると、ミィちゃんが首筋を近づけてきた。細かく説明しなくていいのは助かるのだが、姉さんたちに注視されていてはやりづらい。僕のそんな気持ちをも読み取ったのか、アイさんとマイさんは出ていってくれ、僕はミィちゃんの肩を抱いて、首筋に噛みつこうとした。

「うっ!!」

 が、堅くて牙が立たない。平素は隠れている牙が血を吸うときにはあらわれてくるのだが、ミィちゃんの首にぐさっと刺さらない。手で触れる分にはやわらかい肌が、僕の牙を拒絶するのだ。

「無理みたいね。別種族の魔物だからなんだろうな」
「血……吸えないのか」

「いいじゃない。國ちゃんは吸血鬼なんてやめて、私たちの仲間になればいいのよ」
「吸血鬼ってやめられるの? やめられるとしても、僕がメドゥーサになれるの?」
「メドゥーサって女だから、國ちゃんにはなれないよ。仲間になるの」

 それだと仲間というよりも、生贄なのではないのだろうか。そんなのそんなのそんなの、とうつむいていじけていると、ミィちゃんは僕に指を差し出した。

「こっちだったら吸えるんじゃない?」
「ありがとう。でも……これだと本来の愛の交歓にはならないんだよね」

「しようがないのかもね。國ちゃん、だからって普通の人間の女の子と浮気なんかしたら駄目だよ。もしも浮気したら國ちゃんを丸ごと石にして、二度ともとに戻らないようにしてしまうからね」
「はいっ、しませんっ」

 細い指先を口に含ませてもらうと、かすかに苦くて、豊かに甘い血の味が口中に広がる。おいしい若い血ではあるのだが、物足りない。牙を立てて首筋に噛みついて、ミィちゃんを吸血鬼の仲間にしたい。翔と姉は知っている、吸血鬼カップルの官能を全身で知りたい。

 だが、メドゥーサ三姉妹の末っ子に恋をしてしまった僕が悪いのか。これでは僕が獲物になっただけなのだが、ミィちゃんと姉さんたちは喜んでくれているのだから、これでいいのだろうか。

 帰って正直に打ち明けたら、姉は怒るだろうか。翔も怒るのだろうか。翔は男だから省くとしても、あのおっかない姉に子供のころから怯えてきた僕は、恋人とその姉たちまでが、おっかない女性たち。はっきり言って化け物。

 怖くて綺麗な女性に囲まれるのが、僕の運命だったのだろうか。それでもそれでも、僕には恋人ができて、望みの半分はかなえたのだから、幸せだと思わなくてはいけない。

「國ちゃん、好きよ」
「うん、僕も」

 姉や翔に打ち明けたらどうなるのか、なんてことはあとから考えよう。今はミィちゃんと普通の恋人同士のキスをして、いい気持ち。キスは血の味はしなかったけど、指からだったら吸わせてもらえる。僕もメドゥーサ三姉妹のエネルギー補給のお役に立てる。

 よかったね、國ちゃん、と自分に言い聞かせてみたら、その言葉は血の味ではなく、ため息の味がした。

END

雑日記 《関東より愛を込めて》2011/10/10 17:36

みんな元気?
小説・Fearfull ladyのコメントにも書いたとおり、いま栃木県の宇都宮からUPしてます。
九月の終わりに仕事の依頼が舞い込んで、十月二日に茨城県日立市にやってきました。震災が起こってから半年、こんな話が来るんじゃないかとは思ってましたが、ついに現実になりました。
ご存知のとおり、わたしの本業は屋根工事業ですので、実力の発揮できるところです。
こちらはけっこう田舎な感じで、建物も棟積みの高い瓦屋根が多く、ブルーシートで屋根を覆っているところがあちこち見受けられます。
阪神大震災後のちょっと落ち着いた頃の光景を思い出します。
仕事量が半端なくあるので、最初一週間の話でしたが、そんなもんでは帰れなくなりました。
茨城県日立市といえば、福島原発100キロ圏に近く、放射能が心配なところですが、皆さん何事もないように平穏にお暮らしのようです。が、こちらへ来る前に由希 舞氏に雨水の溜まるような側溝等には近づかないように忠告されたので、その辺は気を付けています。
土壌汚染も関東全域の問題ながら、その処理とさらに汚染された瓦礫の処理の問題等が暗い影を落としているようです。
ま、世間一般の表向きはそんなことも関係ないように動いています。
わたしも内部被爆が心配ながら、そんなことを言っていたらこちらでは何も食べれなくなってしまうので、しっかり食べています。エンゲル係数が高いので3キロも太ってしまいました。
わたしなどは50も過ぎているので寿命が少々縮んでもどうということはありませんが、こちらの子供たちはどうなるのでしょうかね…怖い話です…

いま、栃木県宇都宮に拠点を移して、県をまたいで仕事してます。
こちらの方言が面白くて楽しいです。漫才のU字工事を彷彿とさせます。
「ゴメンね、ゴメンね~」
て、言うんかなって尋ねたら、言わないってオコられた。
逆に関西弁は怖がられます…
女の子が「~だべ」と喋っているのはカワイイです。
来週には一度帰りたいなと思ってます。

なんかこのごろろうそくブログも寂しいねぇ…
せっかく書いてもコメントもないんじゃ面白くないわ
もっとお喋りしようよぅ

雑日記≪帰ってきたウルトラ…≫2011/10/13 17:52

当然ウルトラマンではありませんが、一時帰省で帰ってきました。
屋根の仕事なので、雨が降ったらできません。14,15日が天気が悪いということで、その間に一度帰っておこうということです。16日中にはまた栃木に戻ります。
向こうへ行ってる間に雨が二回、当然仕事ができずにヒマなのでパチンコへ行ったら、一回目の雨の日は1000円で10万円勝ち、二回目は7000円で5万円勝ちと、仕事以外の収入が半端なく、さらにセブイレのガンダム一番くじやったらユニコーンガンダムのヘッドディスプレイが二回も当たるという、まさに運を使い切るようなツキ方\(◎o◎)/

ガンダム一番くじ当たった
ガンダム一番くじ当たった posted by (C)まっはわん
ユニコーンガンダムデストロイモード
ユニコーンガンダムデストロイモード posted by (C)まっはわん

ユニコーンモードに変形
ユニコーンモードに変形 posted by (C)まっはわん

「禅院さん、こりゃあ宝くじでも買わなあかんで」
元請けの工事業者が言うので
「一億円当たったらもう仕事来ないよ」
「そりゃ困る…」
などというやりとりがあったりで、まあ順調以上の成果があったのだけど、帰ってくると、ふく丸がよそよそしい…
「誰や、このおっさん」みたいな態度…
このあほネコ!2週間足らずでご主人の顔を忘れたか!○`へ´○
近づいてこないし、当然絡んでこない。面白くない。
この先まだまだ留守にするのにこれじゃあ、先が思いやられますぅ┌(×_×)┐

さて・・・・なにを書きましょうか(^_^;)2011/10/14 18:20

禅院氏が出張中に何か書こうと思っていたのですが、
コレといったこともない毎日・・・

いや、そんなことないな。
たまにおいしいモノを食べに行ってます↑
(どうしても写真が記事の上にいってしまう・・・なぜだ?
 それから1枚しかいれられないのはなぜ?
 キラ~Help~)

私はみなさまのように創作が出来ない・・・
どうしてか?
たぶんめちゃ現実を生きているからだと思います(^_^;)

ごん、おまいだったのか、いつも、くりをくれたのは。2011/10/15 01:35

今、小学校の先生をしていて、4年生をもってます。
来週、研究授業ってのんで、授業を公開します。
つまり、全校の先生達に授業を見せて、あーだこーだと言われるのん。
そう、胃潰瘍の原因になるものです。

で、私は、国語の『ごんぎつね』をすることになった。
新美南吉が書いたこの物語は、随分前から全社の教科書に
載ってるんで、日本の子どもは4年生で絶対習うんです。
私が小学生で、この物語を習った時、ごんに同化するよりも、
作者に「なんで、ごんを殺したんや!」と腹を立てたもんです。

で、子どもの頃のショックがいまだに癒されていない私は、
指導書のように、ごんの気持ちを読み取らせて
ごんは兵十に撃たれても、気持ちが通じて満足してうなずきました。
チャンチャンと、教えては終われない。
ごんは自分の気持ちを分かってもらうために償いを続けて、
最後に兵十に殺されて、本当に幸せだったんやろか。
自分が理解さえしてもらえれば、死んでも本望だという考えを
子ども達がもっていいんやろか。
この価値観って、とても日本的だと思う。
私は、ごんにもっと自分の人生を愉しんでもらいたかった。
自分のやったいたずらを反省して償いをするのもええけど、
殺されるかもしれない危険を何度も冒すこともないやろ。
子ども達に、人生を切り拓く広くたくましい価値観を伝えたい。
それを4年生の子ども達に、どう教えるねん。

で、そんなことを考えてるから、何度も指導案を書き直している。
素直に指導書通りにしとけばいいものを・・・。
あぁ~っ。近頃毎晩ごんにうなされている。


みんなは、どう思う?
ごんは、賢いきつね? それともアホなやつ?
ごんは、幸せ? それとも哀れなやつ?

by りょう

*初めて記事を書くから、やりかた分からへん。
↓さっちゃんの名前になってしまう。ごめん。
 誰か直して。 m(--)m