お誘い2011/08/09 09:06

ろうそくの森バックナンバーを見てて、新たにお誘いを掛けれそうな3人を発見しました。
今は年賀状のやりとりしかしてないので住所しかわからん。
だからハガキを出してみようと思います。
PNは北斗 裕さん、柏木 薫さん 小夜さん(で合ってると思う…)
憶えてる方もおられるかな?
返事もらえればうれしいな(^ ^)(^ ^)
さてはまたのお楽しみ~(?_?)ゝ

小説(キャンドルライト)2011/08/09 12:07

キャンドルライト

     津々井 茜


 師走っていうんだよね、十二月は。高校の先生もどこかを走ってるんだろうか。考えたくもないことを考えたくなかったので、あたしは街の中を探してみた。あたしの学校の先生は走ってなかったけど、サンタさんがいた。

 イヴの街にサンタさんがいるのは当たり前。本物じゃないのも当たり前。ケーキ屋さんの店先にいるサンタさんは、クリスマスケーキを売るための扮装なのだろう。

 サンタさんのくせして痩せてて寒そう。ケーキはママが買ってくるだろうから、あたしは買わなくてもいいのだけど、外でたったひとりでケーキを売っていて、寒そうに見えるサンタさんがかわいそうになってきた。

「これ、あげる」
 包みを開いて取り出したのは、片想いの彼にプレゼントするつもりのマフラーだった。

「いや、プレゼントはいらないから。オレはきみには興味ないから」

 そのひとことで失恋したあたしは、マフラーなんて捨てようと思っていた。でも、捨てるんだったらこの偽サンタさんにあげたほうがいい。マフラーを首に巻いてあげるとケーキ屋さんのサンタさんは目をぱちぱちさせて、あたしの手になにかを握らせた。

「このろうそくが燃えている間だけ、あなたの夢がかないます」

 小さな小さな声で言って微笑んだサンタさん。あたしの手が握りたかっただけ? まあいいか、と思って彼にバイバイして歩き出す。あたしの手には一本のろうそく。

 うちに帰って両親と弟と四人でごちそうを食べてケーキを食べて、クリスマスパーティ。高校二年生の女の子としては、家族じゃなくて彼氏とクリスマスイヴをすごしたかったな。ふられちゃったんだからしようがないけどね。

 食事がすんで部屋に入ると、机の上にろうそくを立てた。ひょろっと細いろうそくは、あのサンタさんみたいだ。このろうそくが燃えている間だけ、あなたの夢がかないます。

 夢っていくつもあるけど、そんな短い間だけかなうんだったら、なににしようかな。嘘だったとしてもいいじゃない、とあたしは考える。片想いの彼とクリスマスパーティ? ふられた男に未練はなーいっ!!

 いろいろ考えて決めたのは、歌手の乾タカヤさん。彼はあたしよりも十歳以上も年上で、彼が高校生までは近くに住んでいた。時々はちっちゃいあたしを抱っこしてくれたり、遊んでくれたりもした。

 大学に入るために東京に行き、東京で歌手になったタカヤお兄さんは、ちっちゃな理香のことなんか覚えてないだろう。あたしはまだあまり売れていないタカヤさんのファンだけど、一応は歌手なんだから、会えるはずもない。

 背が高くて優しい笑顔のタカヤさんとデートしたい。あたしはろうそくに火をつけて、目を閉じて祈った。目を閉じていると頬に触れる空気が変わってきたみたいな感触。あたしは目を開いた。

「待たせてごめんね。理香」
「……タカヤ、さん」

 デートなんだからお兄さんだなんて言わないでおこう。ダークグレイのコートを着たタカヤさんは、真っ白なコートのあたしの肩を抱いてくれた。

「理香、綺麗になったね。大人っぽくもなったね。きみが好みそうなロマンティックな店を予約したよ。俺の知り合いの店で料理もうまいんだ」
「ワインは?」
「きみはまだ高校生でしょ。うん、でも、最高に可愛い女の子になった」
「嘘ばっかり。最高に可愛かったらふられないよ」

 すねた顔をしたら、タカヤさんは言った。
「話は店で聞こうか。おいで」
 ここは東京? 東京ったって広いから、どこにいるのかは地方の高校生のあたしにはわからない。迷子にならないように、とタカヤさんが手をつないでくれて、素敵なお店に連れていってくれた。

 薄暗い照明の店の中は、シックなクリスマス気分のオブジェやインテリアで飾られている。タカヤさんはセンスのいいスーツで、あたしはファーの衿のついたピンクのドレス。よく似合うよ、とタカヤさんは言ってくれた。

「これほど魅力的な女性とデートしてる男は、他にはいないだろうな。嬉しいよ、理香」
「うん。でもね……」

 理香は酒は飲めないからね、と言ったタカヤさんと、ふたりともにペリエで乾杯。しゃれたおいしい料理を食べながら、あたしはぼやいていた。

「それでね、彼のことを好きになったの。彼が告白してくれないかと思ったんだけど、恥ずかしがってるのかと思ってあたしが告白したんだ」
「勇気があるね。えらいよ」
「……それで、ふられたの。オレはきみには興味ないよ、だって」
「ひどい奴だな。こんな可愛い子を」
「理香は可愛い?」

「可愛いよ。こんなに可愛い理香にひどいことを言うそいつを、今度会ったら俺がぶん殴ってやろうか。どう?」
「そんなの駄目。彼が悪いわけじゃないもん」

「言い方はよくないけど、彼が悪いわけではない。そうだな。人の心は思い通りにはならないものなんだから。うん、理香はわかってる。可愛いし頭もいいし、最高に素敵な女性に成長しつつあるよ」

「そのうちには彼ができる?」
「できるさ。俺が保証してやる」

 すっかりいい気持ちにさせてもらって、食事をすませて外に出る。外には雪がちらちら。

「ホワイトクリスマスになりそうだね。理香、腕を……」
「きゃ」

 腕を組んで夜の街を歩く。こうしていれば寒くない。タカヤさんを見上げて、あたしは目を閉じた。

「……今夜はありがとう、理香」
 顔が顔に近づいてくる。頬を大きな両手ではさまれて、くちびるに軽いキス。道端でのキスなんて、頭くらくら。

「このまんまで大人になれよ、理香」
「……タカヤさん……」

 おなかがいっぱいなのは、ママのごちそうを食べたから? あの店の料理を食べたから? そんなに食べたら太っちゃうな。
 だけど、太ったっていい。今夜はとっても幸せだった。偽サンタさんのプレゼント、ありがとう。

 目を開きたくないなぁ、なんて思いながらも、自然に目が開いてしまう。開いた目に映ったのは、あたしの部屋のあたしの机の上のろうそくの残骸。涙がぽつんと落ちた。

END