「パフォーマー Smile Creator」 を2回も見ちゃった 空白 藍2011/08/27 00:02

   赤い花が咲いた
                                    空白 藍

 もうその曲名さえ忘れていたEXILEの歌を流しながら、切ないパントマイムをする二人組を同じ場所で、二年振りに見た。

 
 結納が無事終わり、両家でホテルの食事を楽しみ、歓談した後、タクシーを勧めるもうすぐ義父になる人に、柔らかくこの季節を楽しみたいことを伝えると、婚約者の将一も、
「僕もご一緒しましょう。」
 と、令と並んで歩き出した。
その姿に令の両親は、顔を見合わせて微笑み、令の弟は小さく
「家までタクシーなんて、めったに無いのに・・・」
 とつぶやき、母に睨まれた。

 お祝いの席だからと勧められたお酒に、ほろ酔い気分で駅まで歩くと、秋の終わりの風が火照ったほほに心地よく、並んで歩く将一のちょうど良い距離感もこれからの二人の生活が、幸せに満ちたものであることを予感させた。

 地下にある駅の入り口が見え、それまで歩いてきた歩道が、アスファルトから石畳の広場へ続く道になったとき、
「もうちょっと、こうして歩いていたかったな。」
 と言った将一の顔を
「えっ?」
 と見上げる。
 同時に、弟が、
「なんか、面白そう。」
 と、叫ぶと、両親の制止を振り切って、広場に集まる大道芸の、観客の中に紛れ込んでしまった。
「僕達も行きましょうか。」
 微笑むと、将一は、令の手を握り、弟と同じように観客の輪の中に入っていく。
 もちろん、男の人と手を繋いだのは初めてではないが、いつも穏やかな将一が、ちょっと強引ともいえるしぐさで自分達を、それまで見ていた人達に同化させたのが新鮮で、どうしてだろう、なんだかどきどきした。
アルコールのせいかな?
お見合いで、ただ、両親を安心させるためだけに選んだ人に、ときめくはずなんて無い。自分にそう言い聞かせていた。

 大道芸は、仮面をかぶった二人組で、マジックとダンスとパントマイムで観客の心を上手につかんでいた。彼らが引いたのだろう、ステージの代わりのロープの前に、見たことのある手品用の造花が一輪。
 もしかしたら、あの人たちかな?将一の大きな手に緩められていた令の心が、ざわめく。

自分を保つため、封印していた、2年前の想いに。


「令さん、今どこ?」
「会社を出たところです。」
「僕は、もう、待ち合わせ場所です~。寒いよ~。」
「えっ、待ち合わせは、7時ですよね。まだ、30分以上もあるのに・・・」
「令さんに会えるって思ったら、早く着いちゃった。寒いよ~。」
「そんな・・・どこか、暖かい所で、待っていてください。」
 冬は、始まったばかりなのに、その日は特に風が強く寒い夜だった。
「なんか、面白いものみつけたから、ここで待ってる。早く来てね。凍えるから。」
 暖かい所で、待っていてくれれば良いのに。そう、思いながら足を速める。
 地下鉄の駅前広場には、人だかりがあり、EXILEの曲が流れていた。
この曲、なんていうタイトルだったかな?そう思いながら歩いていくと、
「こっち、こっち。」
 とサトルが、満面の笑みで手を振る。
サトルが、用意してくれたスペースに身を入れると、自然に二人の肩が寄り添った。

 パントマイムをしている一人がハートの形の風船を膨らまし、割ってしまい、がっくりとうなだれる。本当に寂しげな後姿に切なくなる。すると、もう一人が、同じようにハートの風船を膨らまし、おずおずと渡す。幸せになる二人。

 いつの間にか、夢中で見てしまっていた令の耳もとで、サトルが囁く。
「僕のハートもあんな風に受け取って欲しいな。」
「・・・?!」
 驚いてサトルの方を見てしまった令の顔を、よけることなく見詰めるサトルに、もう一度驚いて、離れようとした令の二の腕をサトルが、しっかりと掴む。
「駄目だよ、令さん。こんな人ごみで離れたら、迷子になるよ。僕が。」
 からかわれている。4才も年下のサトルに・・・そう思っても、心臓はどれほど酸素を送っても足りないほど暴れまくり、頬は、さっきまでの寒風が生暖かい夏の夜風のように感じるほど熱い。
「か、からかわないで・・・。」


 それからも、ずっとサトルのペースで振り回されていた。なのに、いつの間にかサトルを好きになってしまっていた自分に気づいた時に、サトルには、昔から付き合っている彼女がいたことを、人づてに聞いてしまった。
 あっけない別れの切なさからようやく立ち直った時、将一との見合い話が持ち上がり、この日を迎えることになったのだ。

 将一といると、いつも穏やかな自分でいられる。将来的にも、何も不自由はしないだろう。幸せになれる自信がある。
でも、時には、甘えたり、我が儘を言っては困らせるサトルを懐かしく思うかもしれない。
どうしても思い出せないEXILEの曲と赤い花を見てしまったら。